日本海ボルダーツアー 三崎編

2022年GW、日本海の北の方のボルダリングエリアを巡った時の記録。

これの続き。

5.6

道の駅の車内で徹夜で資料を作り、秋田の快活クラブにてゼミの発表を午前中に終えた後、そのまま寝ずに三崎へ。

天気はとても良い。途中鳥海山が綺麗に見えた。

親切なローカルの方に場所を教えていただき、「The Second」の岩へ。

海岸の端にポツンと鎮座しているこの岩は、まるで宇宙船のような見た目をしている。かなり広いルーフを持っているが、ルーフ内はホールドが乏しいようだ。ルーフ内からは日本海を眺めることができ、ロケーションは最高。

このルーフの中から出てくるのが「The Second」二段。他にも、リップをトラバースする課題や、The Secondとは異なる抜け方をするいくつかの課題がある。

今日はGWの中日で、世間は平日であり、もちろん大学も休みではない。自分は午前中にゼミがあり、午後には3,4限があったので、zoomで授業を受けながらのクライミング。オンライン授業最高。

太陽にジリジリと皮膚を焼かれながら、リップを適当にトラバースしたり、フナムシを捕まえて遊んだり。この素晴らしいロケーションを贅沢に独り占めできることに感謝。

「The Second」は、はじめの4〜5手のリップを取るまでのムーブが核心で、最後にあまりないタイプのマントルを返す課題。序盤は色々なやり方がありそうだが、最終的には、「最初から右足をヒール&トーでスタートし、そのまま序盤をこなしてリップを取る」という方法が一番自分に合っていた。最初に結構遠いところにヒールをかけてスタートしなければならないので、人を選ぶかもしれないが、結構いいムーブだと思う。

何回かこのムーブでトライし、完登。

The Second 二段

ロケーション含めとてもいい課題だった。

今日は全く寝てないので、そそくさと撤退。明日はもっとハードに登ろうと思った。

5.7

今日も三崎。この辺りは、温泉、道の駅、コンビニ、ガソリンスタンドがとても狭い範囲に集まっていて、車中泊にはめちゃくちゃ便利。

今日の目的は同じエリアにある「赤蒼」二段と「奴隷開放」初段。場所と課題の情報はまたまた親切なローカルの方に教えていただいた。ありがとうございます。

わかってはいたことだが、アプローチはかなりハードだった。ザックでも結構大変なのをマット2枚背負ってやるのだから、当たり前なのだけれど。

まずは「赤蒼」二段を発見。かっこいい。こんなに格好いい岩、あまりない。

奴隷解放」は探すのに少し時間がかかったが発見。しかし、波が高く、びしょびしょに濡れていたため、今日はトライするのが難しそうだった。今日は「赤蒼」に集中することに。

とは言っても、赤蒼も結露がひどく、スタートからリップ手前まではかなり濡れていた。タオルで拭いて誤魔化しながらトライする。

赤蒼は見た目もかっこいいが、内容も非常に面白い。110度くらいのダブルカンテをフックを多用しながら登っていく。前半に派手なフルスパンでの一手があり、おそらくはこれが核心。そこからはフックをかけて張り付きながらリップのカチを飛ばし、マントルを返す。

核心のフルスパンデッド

見た目はスッキリしているが、探せばいくつかの細かいホールドがあり、ムーブには選択肢があると思う。

自分の選択した核心のフルスパンでの一手は、後でローカルの方に聞いたところ、多くの方が選ぶより一手遠いホールドからのデッドだったらしく、相当遠いらしい。自分も、「このムーブ俺くらいリーチないとできないな」と思っていたので納得。難しさはおそらくそんなに変わらないと思う。

ムーブはすぐにわかったので、繋げトライを始める。12時ごろ、核心を突破し上部に突入。マントルは練習していなかったが、下から見てわかるくらいホールドが豊富だったので、問題ないだろう….と思っていた。マントルに突入し、ガバをつかむ。下から見た通り、ホールドはガバで選び放題だった。

しかし、ある一つのガバをつかんで体を引き上げたところ、ガバが壊れ、突如として、全く意識外のうちに体は空中に放り出され、気づいた時には地面に着地していた。

着地したのは完全にマットの外で、ゴロゴロした岩石の上だった。上の写真の通り、下地には大きな岩や傾斜こそないものの、数十cm大の岩で埋め尽くされている。意識的にか偶然かわからないが、足は岩の間などには挟まることなく、両足とも綺麗に岩の頂点に着地したらしい。

おかげで、体には痛いところはないようだった。

壊れたのは三崎特有の薄いガバだった。リードのルートでも、三崎ではああいったガバが登場することがあり、その時は壊れる雰囲気がなかったため、今回も大丈夫だろうと思ってしまっていた。ホールドの欠損はコントロール外のことなのである程度は仕方がないが、そのリスクがあるとわかっていれば、マットの位置などである程度のリスクヘッジはできる。

不意の落下でアドレナリンの止まらない脳を落ち着かせるため、しばらく休憩した。

ムーブができることはわかったため、もう一度下からつなげる。しかし、今度は核心の一手が止まらなくなっていた。

日が当たってきたことによる状態の変化か、完全に自動化していたわけではないムーブの微妙な変化なのか、メンタルなのか。わからないが、核心のフルスパンの右方向へのデッドが止まらなくなっていた。

確率の問題だろうと思い、その後何度か下からつなげるも、やはり止まる気配がない。一度この一手を研究し直すことにした。

結局、一度できていたムーブであるにもかかわらず、このムーブができるときとできないときの違いを正確に理解するのに3時間近くもかかった。左手のホールディングの問題で、親指を添えるか添えないか、カチ持ち気味に持つかオープン気味に持つかという非常に些細な違いが、自分にとってのこの一手の確率を支配していた。ガバが崩壊して落とされたのが正午くらいで、この時にはすでに15時になっていた。

もう連登5日目、今日もここまでかなりの体力を消耗しているため、自分に残された弾数が多くないことは明らかだった。繋げトライの前にしばらく休憩し、集中力を高める。

1トライ目。核心の右手フルスパンデッドで落ちる。

2トライ目。核心の右手を止める。左手をカンテに寄せ、右手をさらに奥のガバへ送る。左足を慎重にスタートのカチにトーフック。いくつかの経由をしながら、左手をリップ際のガバカチへ送る。

右足をヒールでガバにあげると、体が上がり、上のガバ帯に手が届く。あとは落ち着いて足を送り、ガバで体を引き上げるだけ….なのだが、前回の落下によるビビリが体に刻まれており、ホールドにかなり迷った(全部ぶっ壊れそう)し、腰が引けまくりだった。そしてなんとか岩の上に立つことができた。

赤蒼 二段

ホールドが今にも壊れるかもしれないという”Out Of Control”のリスクの恐怖感とそれを克服した興奮、素晴らしい課題を登ることのできた感動、一度できたムーブができなくなってしまったストレスなど、色々な感情が一度に押し寄せてきて、岩の上では泣きそうだった。

この岩とは今日一日の付き合いだったけれど、こんなストーリーをくれたことに感謝せざるを得ない。自分にとっては「二段の完登」という事実の何倍もの意味のあるクライミングだったと思う。

帰り際に「CUBE」二段のある岩を偵察に行き、しんどいアプローチを遡行して終了。

5.9

昨日は新潟の岩場へ行ったので、1日飛ばしてまた三崎。

やっぱりしんどいアプローチをこなし、目当ての岩へ到着。一昨日に偵察していた「CUBE」二段。

その形から課題名がついたのだろうなということがすぐにわかる見た目をしている。高さとしてはリップまで2m〜2.5mほどだろうか?大きい岩ではない。下地も悪くない。

岩場に着いてすぐにCUBEにトライを始める。しかし、どうにも初手、2手目ができない。仕方がないので一旦ムーブの解体を目的にしてトライ。すると、おそらく必要だと思われるムーブの7割くらいはできないことがわかった。これは困った。

というか、この課題、全然高くない部類の岩であるにも関わらず、手数が多い。自分のムーブで、実質終了のところまで飛ばしなど含めて13手。ほとんど塩原の千と同じ。もちろんその分一手あたりの動きは小さいのだが、どの一手も全く油断できない。

内容としては、左手で左カンテ、右手で岩の中央に散りばめられている左引きのカチを持って抱え込む、フルリーチコンプレッション系。常に足と手で押さえ込んでいないと剥がされるため、四肢の末端の神経にかなりの集中力を要求される。下引きで休めるようなホールドはほとんどない。岩質も難しさに拍車をかけている。岩自体がフリクションに乏しく、効かせるのが難しい。

そんなわけで、初めはこの課題の提示する難しさに全く対応できなかった。しかし、しつこく練習しているうちに、ムーブを4分割くらいにすることには成功した。初手、2手目は足位置が重要だった。

核心らしい核心はない….というと簡単そうに聞こえるが、逆に言えば全ムーブが核心ということである。本当にどこでも落ちれる。強いていうなら、自分にとって難しいのは、①5手目の右手の寄せ(画像下)②11手目のリップ上の皺カチを右手でとるムーブ③マントル直前の足上げ だった。

解体に成功したため、しばし休んで繋げトライ。

ほとんど5手目で落ちる。5手目を突破しても、リップ取り付近で落とされる。

そうこうしているうちに午後になり、頭上の岩壁からは太陽が顔を出しつつあった。もう日本海のボルダーを登って7日目なので嫌というほど思い知らされている。 ここからは西陽との戦いになるということだ。

午前中は全く太陽が当たらず寒いくらいだった岩場はあっという間に温められ、上裸でも暑いくらいになった。いうまでもなく岩にも太陽が当たり、ホールドは触るとじんわり暖かかった。

なんとかしてホールドを冷やすため、レストの間、持ってきた衣類とマット、落ちていたロープを駆使してホールドを太陽光から隠そうとする。

この作戦は全くの無意味ではなかったが、リップ上でかなり繊細なホールディングを要求されるこの課題には、この陽光は致命的だった。10手以上の手数をこなしてマントルに突入する頃には手にはほとんどチョークは残っていない。もちろんチョークアップする隙などない。その状態で、ほかほかに温められた皺のようなカチを握り倒し、ハイステップの足上げをすることは自分にはできなかった。

30分ほど岩を冷ましながら休んでトライ、を繰り返す。しかし、一向に高度は上がらない。むしろ、ホールドはさらに暖かさを増し、上腕のだるさは限界に達しつつあった。

さらに日が落ちれば、気温が下がり状態がよくなるのではないかと思われたが、そんなことはなく、より垂直に近い角度で岩が温められるだけだった。

18時ごろ、しょうもないラストトライをして、岩場を後にする。敗退。

5.10

朝4時30分起床。

午後には日が当たってダメなら、午前中に決着をつければ良い。5時30分にはCUBEの前でクライミングシューズを履いていた。

レストを交えながら、1時間ほどかけて入念にムーブを確認。起床してすぐの体には相当ムーブ強度が高く、初めは昨日のムーブを再現するのに苦労したが、体が起きてくれば問題なかった。

感覚は悪くない。フリクションも、昨日の最後のトライとは比べ物にならない。

そして、繋げ2トライ目か3トライ目で登ることができた。

CUBE 二段

繋げるとやはりマントルが核心だった。高さがないと言っても、リップ上の皺カチはいつすっぽ抜けてもおかしくないし、絶妙な緊張感がある。

フルリーチでダイナミックに抱え込んでいく見た目とは裏腹に、身体中の神経を総立ちさせるような強い集中力が要求される課題だった。とても面白かった。

小川山とかにあったら超人気課題だろう。しかし、この場所にひっそりとあるからまた良いんだよね。

午後からは新潟の岩場で別の予定があったので、8時30分ごろには撤退。滞在時間3時間。

三崎は岩のスケールによって、「静けさ」と「恐ろしさ」が両立したような雰囲気、岩の密度、そしてしんどすぎるアプローチを含めて、素晴らしい岩場だった。

またここにきたときにやりたいことも見つけることができたので、早ければまた今年中にでも来たい。