三面ボルダーについての個人的な見解

こういう予防線を張ったようなタイトルは嫌いだが、以下はあくまで個人的な意見であり、ローカルや管理団体(そのようなものはない)の総意ではないことは明記しておく。

最近、三面ボルダーを訪れる人が増えていると感じる。特に県外からのクライマーが多い。

大前提として、三面ボルダーは非公開エリアである。それはローカルクライマーやお友達同士だけで登りたいからなどではなく、電波が通じないことや駐車場がないことなど、しっかりした理由があってのものである。

ストレートに言えば、自分は今の状況をあまりよく思っていない。

こう書くと田舎者根性丸出しのような感じがするが、そう受け取ってもらっても構わない。

管理する人間もいないし、誰に許可を取っているわけでもない、電波も通じず下地もアプローチも危険なこの岩場に、これ以上多くの人間が集まったら。ふとした拍子で取り返しのつかない事態になってもおかしくはない。

けれど、私は初期の開拓クライマーでもないし、三面には管理団体のようなものも存在しない。それに、「僕だけは特別で怪我なんてしないし安全に登ってる」なんて絶対に言えない。

けれど、それはそれとしても、この岩場を愛し、この岩場にクライマーとしての在り方を教わった者として、「僕にできることはないからみんなの良心に委ねます」というのはあまりに無責任だと思う。

だから、せめてもの足掻きとして、ここに僕の考えを記す。

わがままと矛盾だらけの稚拙な文章だが、何か感じることがあったらそれでいい。

エゴ

僕は、三面ボルダーが好きだ。この星に存在するボルダーエリアの中で最も好きな場所と言ってもいい。

その理由はいくつかある。

  • 雄大な自然の中にあること
  • 電波が通じず、下界との関わりを絶ってクライミングができること
  • 手付かずの巨大な岩が豊富にあり、クライマーとしての冒険心が掻き立てられること
  • 人が少ないこと

などが主な理由だと思う。

最後の理由が最も重要である。これは自分のわがままであり、最大のエゴなのだが、僕は「人のいない三面ボルダー」が好きなのだ。

これついての誹りは甘んじて受けよう。「お前だって人に教えてもらって行っている人間だろう」と。

その通りだと思う。僕も誰かにとっては「いてほしくない人間」である。僕だけが行くことを許され、他の人は来てほしくない、というのエゴでしかない。

けれど、そうあってほしいと感じているのは僕だけではないはずだ。

今時、どこの岩場に行ったって他の人間と全く会わないことなんてほとんどない。YouTubeなどを見ずに、自分の力だけで登るぞ、と思ったって、いやでも他人の登りが目に入る。頼んでもないのにマットを動かしてくれる人もいる。鬱陶しい順番待ちだってある。

この岩場では、誰の力に頼ることもできない。自分の一挙手一投足について責任を負う必要がある。その代わりに、全てについて自由である。

「クライミングは自己責任である。」その本当の意味を知ることができる。

そして、僕はその良さを後世にも残してあげたい、と思う。

この考えは、「人が少ない三面が好き」なのに、「後世の人には三面で登ってほしい」という点で矛盾を含んでいる。それはバランスだと思う。

無差別に人が来るような岩場にはなってほしくないけど、未来の新潟の若いクライマーにはこの岩場を大切に登ってほしい。

まあやっぱりわがままだしエゴだ。

公益性のありそうな観点

自分のエゴの話ばかりでは説得力に欠けるので、常識的な意見も付け加えておく。

何度も言うが、そもそもこの岩場はその性質上かなり危険要素が多い岩場である。

  • 電波が通じない。電波を拾うには20分近く車を走らせなければならない。
  • 岩が重なって下地を形成しているため、下地が悪く、高さもある岩が多い。
  • 岩が柔らかく、ホールドが壊れやすい。

「高さ5mのマントルで、掴んだホールドがぶっ壊れて下地の岩に激突、朦朧とする意識の中、誰にも助けを求められず死ぬ」

というような状況が、他のエリアと比べてかなり起こりやすい。もし周りに他の人間がいても、救急に助けを求めることができるのは早くて20分後になる。救急車が到着するのはさらに40分後くらいになるだろう。岩場から要救助者を搬送するのもかなり難しいはずだ。(一度岩場での搬送を目撃したことがあるが、下仁田くらいアプローチの近い岩場でも、かなりの人手と手間がかかる。)あの狭い渓谷ではヘリでのピックアップもかなり難しいと思われる。

他の岩場であれば助かった命がここでは助からないかもしれない。

「クライミングは自己責任」と声高に叫びつつ、実際に緊急事態になったとき、そこが通常の公開エリアであれば、我々は地域の消防隊のリソースや、周囲の人々に助けを求めるだろう。ここではそれが通用しない。どんな怪我をしていても、這って急登のアプローチを登り返さなければならない。本当の意味で、自分の人生と生命に責任を持たなければならない。

そんな場所に、クライミング自体がおぼつかないような人間がたくさん来たらどうなるだろうか。

今現在こういった状況にあるとは言わないが、いずれそうなる可能性は十分にある。一度歩き出した情報は誰にも止めることができない。

僕を含んだ誰にもこんなことを言う資格はないし、全てのクライマーは愚行を犯す権利を持っていると僕は信じている。けれど、誰かが言わなければならないと思う。

三面ボルダーは、素人のようなクライマーが来るようなところではない。

僕自身、三面ボルダーを案内してください、と言う知り合いの新潟のクライマーに対して、「あなたにはまだ早いから、もう少し成長してからにしましょうか」と言ったことがある。

そういう判断が、自分自身や近しい人によって下されるべき岩場だ。クライミング能力(高グレードが登れるという意味ではない)に関してもだが、少なくとも、自分の生命に自分で責任を負えない人間は絶対に来るべきではないと思う。

三面で登ったことのあるクライマーへ

この岩資源の少ない新潟で、唯一と言ってもいいまとまった課題のある素晴らしいボルダーエリアを、わざわざ自らの手で破滅に導くようなことはする必要がない。

具体的なことを言う。

SNS上でタグをつけて声高に完登をアピールしたりする必要はないし、アプローチや岩の場所を解説してあげる必要もないと思う。

僕も過去には自分の目先の成果をアピールしたくてそういうことをやった。考えなしな行為だったと反省している。

正直名前も出すべきではないと思う。あまり好きではないが、「某所」で留めておくべき岩場だと思う。

※けれどこのブログでは名前を出している。それは、すでにこの岩場の名前はネット上に出ており、その名前で情報を検索した人間がこの「誰でも言っていい岩場なんだ」と勘違いすることを防ぐためである。この岩場について調べたクライマーがこのブログに辿り着き、危険性について知ってから行くかどうかを判断してほしい。現状、「名前を出したもの勝ち」になっている感は否めない。

トポを無差別に配布するような行為もするべきではない。

けれど、もし、自由に対して責任を持つことのできる未来あるクライマーが、「新潟にも挑戦できるような岩場がないかな」と思っているなら、僕は喜んでこの岩場を教えてあげたい。